本荘ごてんまりについて
ごてんまりの始まり
「ごてんまり」は、広く手まりと言われ、日本古来の伝統美を持つ手芸品です。
手まりの歴史は古く、貞応(じょうおう)2(1223)年に手鞠会が盛んに催されたという記録があり、もともとは遊び道具として用いられたのが始まりと言われております。
江戸期の手まりは、御殿女中から庶民に伝わったとも言われていますが、本荘には記録としては残っておらず、現在は歴史ロマンを感じさせる説として広まっています。
また、江戸後期には、石沢鮎瀬にある広田庵の木妙尼が鮎瀬の村娘に伝えた「かけまり」がその地域に広まっていました。
昔の作り方は、山菜の「ゼンマイ」の先についている綿などを丸めて芯にし、その上に機織りするときの織り端に残った糸を巻き、木綿糸でかがったものが多かったようです。
その後、綿の栽培が普及し、木綿糸がたやすく手に入れられるようになった江戸時代中期頃から江戸時代後期には、ハマグリ殻を木くずで包み、さらに真綿で包んでから色糸で巻いて手まりを仕上げたという記録が残っており、明治30年代にゴムまりが普及するまでは、盛んに作られていたと言われています。
”ごてんまり”の復活
昭和30年代には、手まりを手作りする人がほとんどいなくなるなか、木妙尼が村娘に伝えた「かけまり」の手法を石沢鮎瀬の豊島スエノさんが受け継いでいました。
また、昭和34(1959)年頃、市内後町の料亭「甚能亭(じんのうてい)」で働いていた斎藤ユキノさんと児玉八重子さんが、日役町蔵堅寺(ぞうげんじ)にあった古い菊花模様の手まりから、その製作技法を復元することに成功しました。偶然にも豊島スエノさんの娘の大門トミエさんも甚能亭で働いており、ここで石沢と本荘の手まりが出会うことになりました。
斎藤ユキノさん(写真右)
昭和36(1961)年に開催された秋田国体では、本荘市が卓球、ソフトボールの会場になりました。
本荘市は、国体の記念品として「土地がらを現わしている昔ながらの“ごてんまり”を贈呈する」ことにし、豊島さんと斎藤さんらに製作を依頼しました。製作された“ごてんまり”は、本荘に宿泊していた国体チームの監督に記念品として贈られ、各地へ持ち帰られました。
そうして持ち帰られた“ごてんまり”は、多くの人に素晴らしさを認められ、全国にその名を知られるきっかけとなりました。
その後、東京の百貨店などから発注や問い合わせがありましたが、量産ができないことから市販にはいたらなかったため、好事家の間では評判を呼び、本荘市役所には各地から問い合わせがあり、各方面から製作者の保護育成が望まれました。
本荘ごてんまりの発展
“ごてんまり”が大変好評であったため、安定した内職を目指して手まりの商品化が模索されました。
本荘市の商工課や秋田県の内職指導所の後押しがあり、入手が困難なゼンマイ綿をもみ殻にかえ、刺繍糸を色鮮やかなリリアンにし、安価で大量生産のできる製作方法が考案されました。
また、製作者の保護育成のため、木妙尼ゆかりの石沢地区では「ごてんまり講習会」が開催され、伝統の製法を180名が習得しました。
斎藤さんらのグループが作った手まりは秋田市の「田中企業」が買い取ってお土産品として売られることになりました。
「せっかく本荘の人たちが作っているのだから“本荘ごてんまり”としたらどうか」ということで「本荘ごてんまり」の名前が誕生しました。
斎藤さんらは、まりの三方に房をつけるなど、伝統にこだわらない自由な発想のまり作りをし、次第にそれが広まり、伝統の技と自由な発想が融合した全国でここだけという意匠の「本荘ごてんまり」となりました。
ごてんまり作りは、主婦の内職として本荘の町部や石沢地区を中心に広がっていき、昭和45(1970)年には本荘市内の内職者の67.5%がごてんまり作りに従事していたほどです。
そしてその年の「第16回本荘米まつり」協賛行事として、全国で初めて『ごてんまりコンクール』が開催されました。
本荘ごてんまりの今後
昭和50(1975)年のオイルショックを経て、その後の弱電メーカーの内職、パート労働者の雇用増加などにより、ごてんまり作りの内職者は激減してしまい、現在残る制作者も高齢化が心配されているところです。
わか杉国体のサッカー表彰式で記念品の
特大ごてんまりを贈呈された兵庫県チーム
しかし、その一方で趣味のごてんまり作りは若い世代にも広がっています。
ごてんまりは無限の創作の可能性を秘めた民芸品であり、伝統の技を支えるごてんまり制作者はじめ関係者の熱意、努力により、平成19(2007)年に46年振りに開催された秋田わか杉国体でも、由利本荘市を訪れた選手・役員を始め、多くの人々に「美しさと技の粋 本荘のごてんまり」として変わらぬ高い評価を受けました。
また、本荘郷土資料館では、常設展「本荘ごてんまりと全国コンクールの歩み」が開催されており、第1回からのコンクール上位入賞作品の展示など、「全国ごてんまりコンクール」の歩みを振り返りつつ、「美しさと技の粋 本荘ごてんまり」の由来と特色を紹介する機会を提供しています。